ユポをドラムに活用!
「ユポドラム」を制作し、独創的な世界観でパフォーマンスを行うアーティストのささきしおり様にユポの良さをお聞きしました
2023年9月25日
ユポとご縁のある方々に、ユポとの出会いのきっかけやどのような場面で活用されているのか、ユポへの期待などをインタビュー。今回は、ドラムヘッドの本革の部分に合成紙ユポを使用した「ユポドラム」を制作し、粘性の高い絵具を使って描線を描くことで音を織りなすアーティストのささきしおり様にお話を伺いました。

Profile/ささき しおり Sasaki Shiori
ユポドラム・アーティスト
2023年、京都芸術大学大学院修士課程修了。大学院入学前から、作曲家として活動するなかで「描奏をきく」を提唱。2021年よりユポドラムを制作、パフォーマンス作品を発表。2023年4月に「GEISAI#22 & Classic」出展。2023年6月には個展「描奏をきく」を開催するなど、ユポドラムを用いたドローイングによる描線と同時に発現する音を体験する芸術活動を広く展開、描奏体験のワークショップなども行っている。
心が揺さぶられる音楽の本質とは何かを問い続けた
はじめに、ささき様の独創的な芸術活動のルーツを教えてください。
音楽大学生時代に作曲活動をする中で、自分にとって本当に心が揺さぶられる音楽の本質とは何かという問いに向き合っていました。その答えを見つけるため、ジャンルにとらわれず、もっと幅広く音楽に関わってみようと考え、卒業後は作曲から離れて演奏活動や演劇に挑戦することに。様々な音楽や美学、価値観に触れ合い自分の興味を模索していくうちに、線を描いたときに鳴る音、または描いた線がかすれると同時にだんだんと消えていく音が、「音の視覚化」だと気づいたんです。つまり、描くことは演奏でもあると。私はそれを「描奏」と定義し、現在の芸術活動のコンセプトにもなっています。
「音楽を通して何を聴かせたいのか」を考えたときに、私は自分の中に明確な解が出てきませんでした。皆さんはそれぞれ、ピアノの音が好き、和音が好きというように、好きな音が具体的にあるかもしれません。私の場合は、既存の音が好きというよりも、音を作り出す方が好きなのではないか。その方が私にとって重要だとわかったのです。クラシックや現代音楽は、連続的な時間のなかで音の構造を重視します。私は、そうして音と音を繋げることよりも、音そのものに集中して、自然に生まれる音の一瞬の面白さを体験したいし、皆さんにも体験してほしい。構造は結果としてついてくるものだと考えています。こうして、描く動作と演奏とをイコールにして何か見せられないかと、5年ほど前から芸術活動を始めました。
「ユポドラム」とは何か、あらためて教えてください。
ドラムヘッドの本革の部分に合成紙ユポを貼り付けたものを「ユポドラム」と呼んでいます。そこに絵具で絵線を描きながら演奏する。映像と音響を組み合わせるのではなく、現実として音と線が連動して発生しています。これが私の言う「描奏」です。以前は、集団即興の本番でスケッチブックとマーカーペンを持って、みんなが楽器を弾いているなか、「私はペンで即興します」と試してみたのですが、シュッと描いた音が時に乏しくて…。音に表情を持たせるためには、スケッチブックでは不十分さを感じました。文房具は均一な線を書くために均一にインクが出ますが、私が求めているのは、その時その一瞬で偶発的に生まれる音や体験。完成された構造や一連のつながりを表現するのではなく、一瞬一瞬の感性によって時間を紡ぎ、動作や音を奏でたい。もっとダイナミックに表現するには、太鼓に紙のような素材を貼ることで、楽器とキャンバスという役割を持たせると、音がしっかりと視覚化されるのではないか。そうして発案したのが「ユポドラム」です。

ユポを知ったきっかけは何でしょうか。
「描奏」を実現する方法を考えるためには、もっと素材についての知識が必要だと痛感し、京都芸術大学大学院に入学しました。そこで、研究室では思いつくものすべての紙を試したんです。しかし、新聞紙は濡れると破れてしまいますし、綿や他の布は繊維が伸びてしまって使えません。強度が強すぎる紙は分厚さゆえに、大きなドラムに貼るとたゆんでしまいます。材質や強度を含め、「描奏」するための条件をクリアするものはなかなかありませんでした。そんな中、ちょうど研究室で青木芳昭教授にご紹介いただいたのが合成紙ユポだったのです。
早速試したところ、驚いたことに、ユポはかなりの張力をかけても破れません。力をかけられる分、音のバリエーションも広がります。そのうえ水にも強く、水彩絵具も使える。私の表現したいことを実現するには、ユポはもってこいでした。まさに、ドラムのヘッドに使える強度と薄さを誇り、理想のドラムを実現させるために最も相性が良いのは、ユポだけでした。後に気づいたことですが、光の拡散効果が良いのもユポの魅力です。ライブパフォーマンスをするときは、暗がりのなかでドラムをライトアップしますので、お客様からは色の重なりがとても綺麗に見えるんです。
ユポがなければ、ドラムに紙を貼るというアイデアは実現しませんでした。理想はあっても、ツールがなければ表現としては成立しない。そういう意味では、ユポのおかげで次のステージに進めたと思っています。

「作為と不作為の狭間」。ユポドラムが生んだ自由な創造の形
ユポドラムの魅力はどういうところにあるのでしょうか?
私は「作為と不作為の狭間」がユポドラムの大きな魅力だと思っています。作為と不作為は、必ず表裏一体になっています。こういうものを描こうとしたときに出る音は、結果的には不作為な音。逆にこういう音を出そうとしたときに描いた描線は不作為なもの。描く行為と奏でる行為の間を、本人が彷徨ってしまう。自分は一体何を描きたいのか、どんな音を出したいのかを問う、いわば自分との対話であり葛藤の時間でもある。毎回が唯一無二の体験です。絵具だから何かを描かなきゃ、ドラムだからリズムを演奏しなきゃという観念を取り払い、自由に創造してほしい。何かの目的の下で創り出すのではなく、自己対峙を意識していただきたい。音の重なり、色の重なり、時間の重なりが作為的ではないからこそ実現する自由な芸術が、ユポドラムで表現できる魅力だと考えます。

「先入観に囚われてほしくない」。ユポドラムを通じて社会に届けたいものとは
ささき様が開催する展示会への想いを教えてください。
私が作品を完成させるうえで重要だと考えているのは、作品が社会的に誰かと関わることです。誰かに鑑賞されることで芸術作品は成立し、やっと私の手から離れていくという感覚があります。だからこそ、体験会や個展で、知らない人同士が感じたことを共有している場面に遭遇するのはとても嬉しいことです。
ユポドラムを通じて、社会に伝えたいことは何ですか。
専門的な知識を前提とせず、年齢も性別も問わず、色んな人に体験してもらいたいですね。私は「ユポドラム」の体験が、先入観の壁を超えていくものになってほしいと願っています。大人になるほど、「こうあるべき」という先入観を持って物事を見るようになりますよね。ユポドラムに関しても、演奏家の方に「どんな音を出してほしいの?」と何度も聞かれることがあります。最初は私も、「既存のものに当てはめないといけないのかな」と思っていましたが、偶然鳴った音と同時に線や色が現れる、その未知の体験にこそ美しさがあると気づきました。これはこういう道具でこのために使うものだといった、常識的かつ規範的な概念に則らず、ユポドラムは、自分と対話するための手段であってほしい。自分と向き合い、解放する芸術であってほしいと思っています。

- ※「ユポ」は株式会社ユポ・コーポレーションの登録商標です。